ネット参入期（1997-2000）

時代の波はネットへ移行することは確実でした。
衰退するFAXにいつまでも主軸を置いておくことはできない。
そう考え、社員にもネットを販売して行こう！と呼びかけました。

ところが、そうは簡単には行かなかったのです。

当時営業マンの給与は粗利益連動。
長い目で見ればネットが主流になるかもしれないが、足元利益はFAXが稼いでいる。
営業マンからしても顧客がついていて、ある程度数字の読めるFAXに対し、
当時はまだ売るのが難しく、知識も希薄なネット。
ネットになじみのないお客様を説得するのも大変。
現場はFAXを売った方が良い、と判断し、全くネットを売ってくれなかった。

そこで、私は強硬手段に出た。

「明日からFAXは一切売ってはならない！」

強引にFAXからネットに事業転換を図りました。
現場は混乱し、何名かの社員は辞めていき、翌1998年決算は売上2.7億円と創業来初めての減収となりました。
丁度97年は山一証券や拓銀がつぶれる大不況の年。
当社も資金繰りなど非常に苦しい時でした。
しかし、将来大きく飛躍するためには一刻の猶予もならなかった。

FAX撤退の本気度を見せるために、すぐにFAX事業は売却先を探しはじめ、結局セントメディア（現ウィルホールディングス）に売却してしまった。
これでFAXを売りたくても売れない状況、まさにネットを売らねば生きて行けない背水の陣を引いたのである。

1998年ネットに事業転換を図った後は次々とネット事業を立ち上げて行く。ネット時代が目前に迫っていることにワクワクする毎日であり、当時何冊も読んだネット関連の本で最も影響を受けたのが「 ネットで儲けろ 」（マッキンゼー著）

ネットで儲けろ/ジョン,3世 ヘーゲル
￥1,995
Amazon.co.jp

である。題名は品が無いが、監修はなんとDeNA創業者の南場さん（当時マッキンゼー）。コミュニティ構築を推奨しているが、今でもこの概念は通じると思える秀逸の本である。

当時何と言っても興奮したのは、ネットの登場によってありとあらゆる業界で地殻変動が起きると確信したことだった。今まで全国に店舗網を有していたことが大きな武器、参入障壁となっていた企業が、逆に資産を持っていることが足枷になり、コスト安からくる料金競争で負けていくのを目の当たりにするようになる。これは単なる一例に過ぎず、もっと根底で 新たな秩序、新たな企業が生まれ、新たな行動様式、価値観が生まれる。 サービス提供者はニーズに合うよう大きくビジネスモデル自体を変革させる必要性に迫られる。まさにネットは21世紀の産業革命ツールであると思った。

このような新しいニュースが米国から飛び込んでくる度に興奮した。世の中は大きく変革する。新しい産業が勃興し、新しい価値観や社会が生まれる。それを自らが牽引できるかもしれない。

日々ワクワクした気持ちの中、我々はネットマーケティング、懸賞サイト運営、ネットでの不動産売買、カード比較サイトといったネット4事業を相次いで立ち上げた。しかし、そこに大きな落とし穴が待っていた。

これからネットバブルが来ることは米国を見れば明らかであった。つまり、資金調達は容易になる。その時ふと「出資と融資で、どちらが資金調達コストは安いか？」を考えた。

仮に1億円の出資か融資を受け、5年後に上場し株価が10倍の10億円になったとする。融資であれば低金利時代なのでせいぜい２％程度。単純に5年換算しても1000万円払えば良いことになる。ところが出資の場合差額は9億円。既存株主からすれば当然融資の方が得である。そこで判断を誤った。
※実際オプトの場合も1998年～2000年に2億の融資と3億の出資を受け、5年後に約15倍でＩＰＯすることになる。

本来「運転資金は融資、投資資金は増資」というのが王道であろう。ゆえに新規事業資金は増資で賄うのが筋であった。ところが、上記のような資本調達コストを考え、また資金調達天国のネットバブル到来を見越し最大限まで借入してしまった。

その結果、ネットバブルが来た1999年後半ベンチャーキャピタルを回ったが、決算書が2億円の赤字、債務超過間近になったベンチャーにはなかなか出資をしてくれなかった。一方、アイデアや事業計画だけで赤字のない創業ベンチャーには次々資金がついていった。結局40社程VCを回り、ようやく3億円の調達に目途をつけた時は数多くのベンチャーに先を越されてしまい、悔しい思いをするはめになってしまう。

1999年に資金調達にあたり、ベンチャーキャピタル（以下VC）だけではなく、私は多方面の知見のある方に株主＝オプトの応援団になっていただこうと考えた。

まずはベンチャー経営者。売上数百億の上場企業社長や創業時からの親友でもあるプランドゥシー野田社長など。一方で、売上1兆円超の重厚長大企業TOPでは、某大手ガス会社会長やNTT○○○会長など。両軸の経営者から学べることでバランス感を養おうと持った。また、コンサルタントも当時マッキンゼーのパートナーの方や今はオプトの経営陣にジョインしてくれたトーマツコンサルの石橋氏。他にも大学教授等幅広い分野の方々に株主になって頂いた。

のちに大激論になる株主総会はこのような方々のオプトを思う気持ち（と勿論投資リターンのため）から生まれる事になる。

「なぜそんな方々に株主になってもらえたのですか？」とたまに聞かれる。私の場合、経営の素人で周囲に教えてくれる経験者もいなかったので、とにかく色んな人に教えを請いに行った。勉強会には積極的に参加し、自らも主催した。それらの活動の結果様々な方と知り合えたのが大きい。広告業は人と知り合えば仕事も広がる点も後押しした。

ところで、その際出資頂いた日本のVCの大半はお金以外得るものが少なかったのは残念である。経済同友会の主要メンバーが出資して設立された日本ベンチャーキャピタルの担当者渡里さんにはいまだに懇意にして頂いているが、結局はプロ意識を持った担当者がキーかと思う。米国VCのように、経営のアドバイスや優秀な人材のスカウト、大手企業の紹介などは日本のVCにはあまり期待できない。日本の大半のベンチャーキャピタリストは経営の経験もなく、人脈も少ないから仕方ないが。日本にも何人かプロのキャピタリストが出てきたが、今のような株式市場もあって新たに増えていかないのは気掛かりである。

1999年にオプトはe-sumai.comというサービスを立ち上げる。オプト役員のうち3人が森ビル出身であったことや、中でも野内敦が不動産事業に情熱を持っており、ネット上での不動産売買サービスへ参入した。

当時としては斬新かつ革新的なサービス。ネットを通じて主に新築マンションの物件紹介や内覧会への送客などを行ない、売買成立により手数料を得るモデル。それを皮切りに不動産物件情報サイトとしてNO1を目指そうとした。

2000年に入り、サービス開始早々にネットバブルがはじけ資金調達もままならなくなってきた。当時役員は手掛けていた4事業をこのe-sumai事業にフォーカスする決断をし、実は楽天三木谷社長と握手し楽天との資本業務提携を行なう手筈になっていた。しかし、株主総会で株主の反対に合い否決（この株主総会模様は後述します）。ちなみにその後楽天はe-sumaiを吸収合併することになるネクストと資本業務提携を行なう。

e-sumaiは、その後2002年にGMOグループのまぐクリックとイースマイという合弁会社を立上げ、まぐクリックの持つ集客メディアから送客してもらう。西山社長も大の不動産好きという接点でもあった。 
まぐクリック、オプトと合弁で株式会社イースマイを設立。不動産情報配信へ（2002年12月5日）


そしてついに「HOME'S」を運営するネクストに売却することに。これでe-sumai事業はオプトの手を完全に離れる事になる。
「HOME'Sを運営するネクスト、イースマイを吸収合併」（2005年2月9日）
http://www.news2u.net/releases/5890

（下へ続く）

野内からすれば苦しい5-6年であったろう。自ら立ち上げた事業ゆえの思い入れ。一方で大きな赤字と責任。
彼のすごいところは、累積2億円の赤字を抱えた事業を、知恵を絞り、最後まで逃げずに執念で投資を取り戻す責任感。

1つ目はe-sumai自体の投資回収。
結局ＨＯＭＥ’Ｓに売却した際ネクスト株を得た当社はネクストの上場（2006年）で数倍の利益を得る事となり累積赤字2億円を上回るリターンを得る。野内の上場時のホッとした表情は忘れられない。

2つ目は新たな不動産広告事業収益化。
ヤフーに持ち込み「Y!不動産」への物件掲載を独占で引き受ける会社クラシファイド社を立ち上げる。現在不動産情報サイト大手の一角を占めるまでに。これはこれで立上げに困難があったが、不動産広告に強いオプトというブランド形成にも大いに貢献。収益的にもグループに大きく貢献する会社になっている。

そんな野内はその後オプト全社COOを経て、現在はオプトの次なる柱とすべく、データベース事業領域でCCC社と合弁でプラットフォームID社を設立（2011年7月）し社長に就任。
http://www.opt.ne.jp/news/pdf/pr/20110706_PR_PlatformID.pdf

まだ収益化はそこそこだが、そんな彼だからこそ全幅の信頼をおいている。

1999年9月ワイネット宮内氏が幹事となり大蔵省（当時）とベンチャーの意見交換会が開催された。
大蔵省側は武藤事務次官（現大和総研理事長）を筆頭に錚々たるメンバー。
大蔵省側の幹事は現在ニュースZEROの司会をしている村尾さん。
一方のベンチャーは孫さん、澤田さん、折口さん、三木谷さんなどこちらも錚々たるメンバー。
http://www.ynet21.com/main3/main3_2.html

非常に画期的なこの試みで、互いに様々な意見が交わされた。
私も米国が1987年のブラックマンデー後、国を挙げてベンチャー支援策を押し出し、結果IT産業、インターネット産業などで次々世界企業が生まれ国家が復活繁栄した資料を配布し国家繁栄策の１つとして持論を展開した。

最も吠えたのが孫さんだ。
気合いの入った熱弁で日本に不足している点を指摘していたように記憶している。
結果、翌2000年6月にナスダックジャパンが開設され、12月に東証マザーズが続き、海外から投資家が一斉に日本市場へ押し寄せた。

小泉政権になり規制緩和が一層推し進められ「日本は本当に生まれ変われるかも」と淡い期待を抱いた数年間であった。結果としては2006年1月のホリエモン逮捕でこの流れは終わってしまう。小泉さんがもう少し頑張ってくれたら、と思ったりする。

この時の経験から、ベンチャー支援策で、助成金はじめ各種支援策が何度も打ち出されるが、それらは枝葉末節であり、結局はマーケット形成こそが肝であると痛感する。株価形成され、エグジットできるマーケットさえあれば、投資家、有能な起業家、ベンチャーキャピタルなどは自然集まってくる。

実際ナスダックで大きな時価総額がつくから、シリコンバレーのベンチャーに投資するベンチャーキャピタルはたくさん存在し、世界中から起業家が集まってくる。よって、例えば東証にもアジア売上比率が3割以上の成長会社しか上場できない「東証アジアンマーケット」など、投資家を分かりやすく惹きつける場を作って欲しいと思うのだが。